橘 亜嘉音(たちばな あかね)


佐伯 裕太(さえき ゆうた)






あれは8年前、16歳の冬


僕たちは周りが思うほど子どもじゃなくって


だけど、自分たちが思うほど大人じゃなかった





愛の挨拶





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亜嘉音「ゆーうーちゃーん!かえろー!」
裕太 「おう、もうちょいまってー」
亜嘉音「早くー、映画はじまっちゃう」
裕太 「わかったて、じゃ、崇またな」
崇  「あいかわらずラブラブだねー」
裕太 「ラブラブって・・・」
亜嘉音「『ラブラブ』でしょ?じゃぁ、広末くんまたね!」
崇  「映画館で襲われないようにな」
裕太 「バーカ」



そう、あれは16歳の冬
付き合ってちょうど2年になるこの日に映画にいったわたしたちは
いたって普通の高校生カップル
・・・のはずだった



映画を見終わって喫茶店に入ったんだけど、
彼の様子がちょっとおかしかったの



今思えば、あれは優柔不断の彼の精一杯の決断だったのかもしれない





亜嘉音「映画よかったねー!ゆうちゃん、どこが好きだった?
    えっとねぇ、あたしはー・・・」
裕太 「・・・あかね、話があるんだ・・・」
亜嘉音「・・・?
    なによ、改まっちゃって」



チッチッチッチッチッチッ・・・・ボーン・・・ボーン・・・ボーン・・・・・・



ちょうど古時計が3時をさしたとき

ようやく彼はこう言ったの







裕太 「・・・父さんの転勤が決まったんだ」
亜嘉音「えっ?あー、そうなんだ。
    おばさんもついていくの?さみしくなっちゃうね」
裕太 「・・・俺も、俺も行くんだ」


亜嘉音「・・・え、何言って・・・」
裕太 「カナダに行くんだ」
亜嘉音「・・・・・・」
裕太 「・・・・・・」





彼はどうしてもその先を言おうとしなかった



「別れよう」


この一言がどうしても言えなかったの


本当に・・・彼らしい

結局わたしから切り出したのよね









亜嘉音「・・・これからあたしたちはどうするの?」
裕太 「・・・・・・」


亜嘉音「ねぇ」
裕太 「・・・俺は、ほんとにあかねが好きだよ?
    だけど・・・」


亜嘉音「・・・・・・別れようか」



裕太 「・・・・・・ごめん」

亜嘉音「何謝ってるの
    カナダと日本・・・
    とても、近いとは思えない
    遠距離できる自信は・・・ない」

裕太 「あかね、、、俺・・・」



亜嘉音「仕方ないよ・・・

    あたしたちは子どもだもん」






そう、わたしたちは子どもだったのよ

ふたりじゃどうしようもなかった

自信も、勇気も・・・

これからの希望もまったく見えなかった

だけど、「好き」という気持ちはかわらなかったの

かえられなかった



わたしは

彼の出発の日に空港へいったの

もちろん彼に会うために

さよならを言うために










裕太 「あかね・・・どうして・・・」


亜嘉音「挨拶を・・・しにきたの」
裕太 「・・・・・・」


亜嘉音「あたしたち、結果はこんな風になっちゃったけど
    だけど・・・すごくすごく楽しかったよ」

裕太 「・・・・・・俺も」

亜嘉音「ゆうちゃんといると心があったかーくなったの」

裕太 「・・・うん・・・俺も」



亜嘉音「けんかもしたけど、仲直りの時に抱きしめられるの好きだったよ」

裕太 「・・・・・・」


亜嘉音「ゆうちゃんの笑顔に何度も助けられたよ」

裕太 「・・・・・・」


亜嘉音「ゆうちゃんの目に何度も勇気をもらったの」

裕太 「・・・ありがとう・・・」

亜嘉音「・・・ゆうちゃん」

裕太 「・・・うん」




亜嘉音「あたしたち、大人だったら別れなかったかな
    遠距離、がんばれたかな」

裕太 「・・・・・・」

亜嘉音「・・・きっとね、これは『運命』なのよ」

裕太 「・・・運命・・・」

亜嘉音「そう
    あたしたちは、別れる運命だったの」

裕太 「・・・・・・」

亜嘉音「・・・ゆうちゃん
    ・・・ゆうた」

裕太 「・・・うん」

亜嘉音「向こうにいってもがんばって」

裕太 「うん」

亜嘉音「笑顔を忘れないで」

裕太 「うん」

亜嘉音「負けないで」

裕太 「うん」

亜嘉音「・・・ゆうちゃん」

裕太 「・・・・・・」




亜嘉音「さようなら」





彼は何も言わずにわたしを抱きしめてくれた

そうね、あれは彼からわたしへの

わたしから彼への



『愛の挨拶』だったのかもしれない





「さようなら」に愛を込めて

抱きしめる腕に愛を込めて





え?
彼とはどうなったのかって?



そんなの・・・
あなたが一番わかってるでしょう


もう、なによ、そんなに笑わないでいいじゃない


あなただって覚えてるんでしょう?



ねぇ






ゆうちゃん










あれは8年前、16歳の冬


僕たちは周りが思うほど子どもじゃなくって


だけど、自分たちが思うほど大人じゃなかった


別れる運命にあった僕たちは


運命に逆らってもう一度手をとりあった




・・・いや、もしかしたら・・・



最初から『そういう運命』にあったのかも





《Fin》    HPトップへ
 

 
 




















































































































































































































 

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